日本は世界で最も高齢化が進んでいる国の1つであり、今後は人口の大多数が高齢者になる「超高齢化社会」化が予測されています。
このような社会状況に対応するために、テクノロジーを活用して高齢者の生活の質を向上させる「エイジテック」が注目を集めています。
エイジテックは、高齢化が進む日本で今後益々注目を集める分野です。
高齢世代の生活の質向上に寄与する社会貢献と、超高齢社会で引き起こされる社会問題の課題解決という2つの重要な役割があるエイジテック。この分野に参入し、成果を上げることができれば、新しいビジネスの創出と同時に、企業価値を高めることにも繋がるはずです。
エイジテックは必ずしもリソースが潤沢な大企業だけのモノではありません。戦略次第では中小企業であっても十分に成果を上げられる分野です。
そこでこの記事では、急速に市場が拡大し続けるエイジテックについて紹介します。さらに、中小企業のビジネス戦略についても考察していきますので、持続可能な企業経営を構築するヒントにしてください。
目次
膨らみ続けるエイジテック市場
エイジテックとは、「Age(年齢、特に高年齢)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語です。
高齢者の生活の質を向上させるために作られているテクノロジー、並びにテクノロジーを使ったサービス全般を指しており、高齢者が抱えるさまざまな問題を解決・サポートすることを目的としています
Forbesの記事内で試算された予測によれば、グローバルでのエイジテック市場は毎年21%増のペースで拡大を続け、、2025年までには世界で2.7兆円、日本円で約300兆円規模にまで迫るとされています。
日本国内だけでも高齢者向け市場は2012年時点で100兆円に到達しており、その後も毎年1兆円の規模で拡大を続ける見通しです(参考:高齢者市場開拓の視点/ニッセイ基礎研究所)。
この急速な市場拡大の背景には、高齢者人口の増加と共に、シニア層のデジタルリテラシーの向上が挙げられます。つまり、デジタルツールを活用できる高齢者の数が右肩上がりに増え続けているのです。
ただし、高齢者向けの市場は拡大しているものの、世界のデジタル先進国と比べると、日本国内のエイジテック市場はまだ発展途上の段階です。
日本企業にとっては、大きなビジネスチャンスが見込まれる分野だと言って良いでしょう。
既存のビジネスにおけるDXの推進と併せて、高齢者の多様なニーズに応えるサービスやソリューションを提供して、このエイジテック市場で積極的な取り組みを行っていくことも、経営戦略として検討すべき時代になっています。
エイジテックビジネスの4分類
すでに先駆的なエイジテック企業は、高齢者や高齢化社会が抱える問題をテクノロジーで解決し、高齢者の生活の質を向上させるためのサービスを開発しています。
既存のテクノロジーを応用したものから、新たに開発されたものまで、様々な製品やサービスが存在します。そのビジネスモデルは提供者・対象者ごとに大きく次の4つのカテゴリーに分類できます。
- 高齢者自身が利用・購入するエイジテック
- 高齢者の家族が利用・購入するエイジテック
- 医療や介護事業者向けのエイジテック
- 将来高齢者になるプレシニア層向けのエイジテック
高齢者自身が利用・購入するエイジテック
エイジテックビジネスの代表的なビジネスモデルは、高齢者自身が利用・購入する製品やサービスです。高齢者の日常生活をサポートし、高齢者自身の生活の質向上に寄与することを目的として開発されています。
超高齢社会が進むのに伴い、高齢者が生活の中で直面する課題を解決するニーズも高まっています。高齢者のニーズは多岐にわたるため、それだけ新たなサービス開発のチャンスも広がっていると言えるでしょう。
代表的な例としては、安全に配慮した高齢者向けの家電製品、表示が大きく操作がしやすいシンプルなスマートフォン、食事管理や健康管理のためのアプリなどが挙げられます。
企業には、高齢者の身体的能力の低下による課題を解決するサービスや、孤独感の解消するコミュニケーションツールなど、高齢者の「困った」を減らすソリューションを提供し、社会課題の解決に貢献することが期待されています。
製品設計においては、特に使いやすさや安全性に配慮することが重要です。
高齢者の家族が利用・購入するエイジテック
高齢者自身だけではなく、その家族が利用したり購入したりする製品やサービスも、エイジテックの代表的なビジネスモデルです。
すでに一般的になっている遠隔地に住む家族が、高齢者の状況を把握できる見守りサービスなどがその代表例です。また、遠隔での高齢者とのコミュニケーションを支援するツールやアプリも開発されています。
生活環境の異なるそれぞれの家族のニーズに合わせたサービス設計が求められており、高齢者と家族をつなぐソリューションは、今後ますます重要性が高まると考えられる注目の分野です。
医療や介護事業者向けのエイジテック
高齢者の生活の質を向上させるには、その生活をサポートする医療や介護事業者の存在は欠かせません。そのため、医療や介護事業者向けのソリューションも、エイジテックの中で重要な分野です。
例えば、介護記録の作成や情報共有を効率化するソフトウェア、介護スタッフの業務をサポートするウェアラブルデバイスやセンサーが開発されています。
この分野のビジネスモデルを考えるには、介護サービスの品質向上と働き方改革の両立に貢献できるかが重要なポイントになるでしょう。
つまり、介護される側の高齢者やその家族の満足度を向上しつつ、同時に介護サービス提供者側の負担を減らすことができれば、一気にシェアを獲得できる可能性は高まります。高齢者と介護者の両方に目を配った開発が重要なのです。
この分野では、テクノロジーを活用しつつ、人的な関わりも大切にする意識を持つなど、バランス感覚が求められます。
プレシニア層向けのエイジテック
現在中高年で、今後高齢者になっていくいわゆる「プレシニア層」に向けた様々な製品やサービスも、エイジテックの一分野に含まれます。
例えば、現在の生活習慣を改善し、将来も健康で充実した生活を送り続けるための健康寿命を延長する生活改善サービスや健康管理ツール、あるいは将来的な病気のリスクを調べる遺伝子検査のようなテクノロジーは、この分野のエイジテック事例です。
また、早期のプレシニア期から自分で生前に不動産を整理・売却できるようなサービスなども提供されています。
この分野のエイジテックは、プレシニア層が今持っているお金と健康といった「自分自身の資産」を失わないようにする、いわば「負の解消」を図るサービスと言えるでしょう。