目次
経理DXプロジェクトの立ち上げプロセス
DX推進に関するビジョンの共有と業務の可視化ができたら、次に必要なのはプロジェクトを立ち上げることです。
プロジェクトの立案・実行は、経理部門や担当者だけではなく、関係部署を巻き込んで会社全体で取り組みます。
本章ではプロジェクト立ち上げに際して、重要なポイントを解説します。
デジタル人材の確保
DX推進でキーとなるのは、何といっても「デジタルに強い人材の確保」です。
DX推進に必要なデジタル人材とは、単にデジタル技術に関する専門的な知識があるだけではなく、部門・部署を横断した調整役を担える高いコミュニケーション能力も必要になってきます。むしろ、こちらの方が重要な能力といっても過言ではありません。
具体的には、専門知識以外は以下のような能力が求められます。
- 傾聴力
- DX推進力
- 既存業務の理解力
- プレゼン・交渉力
- プロジェクト管理能力
とはいえ、このようなデジタル人材を確保するのは現実的には難しいため、必要に応じて、経理メンバーや他部門の中から意欲ある従業員を募り、人材育成をしながら進めることも検討しましょう。
また、専門的な知識と豊富な経験を有する外部企業が提供するサービスを利用することも、選択肢の1つです。ただし、「内製化が不可能である」と判断したからといって、安易に外注先任せにしてしまうことには注意が必要です。
外部に依存してしまうと、社内に経験や知識が残らず、DX推進に必要な文化が根付きにくくなってしまいます。
そのため、内製化で足りない部分がある場合であっても、主導権は社内で持ち、必要な部分だけを外部に委託するなど、ハイブリッドな組織作りを目指すことが大切です。
DXジャーニーマップを作成
DX推進には往々にして時間がかかります。また、ゴールに向かって一直線に進んでいくことは難しく、その時々の状況に合わせて方向転換を迫られる時もあります。
一筋縄ではいかないDXに取り組むうちに、徐々にビジョンや目的が曖昧になってしまい、プロジェクト自体が形骸化してしまう場合もあります。
こうなってしまうと、目的地を見失ったままフライトを続ける飛行機のようなもので、真のDXが実現できないことは言うまでもありません。
このような事態に陥ることなくプロジェクトを完遂させるためには、スタート時点でDX推進に関する共通認識を見える化した設計図を用意する必要があります。
経理業務に限らずプロジェクトマネジメントを進める上での参考書、【プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)/一般社団法人 PMI日本支部】内では、こうした設計図を「プロジェクトチャーター(憲章)」として、次の項目を設定すべきと紹介されています。
・プロジェクトの目的
・プロジェクトのゴール(測定可能な成功基準)
・プロジェクト概要、作業範囲
・前提条件・制約要件
・ハイレベル要求事項
・予算(概算から本予算へ)
・リスク
・要約マイルストーン
・ステークホルダー(利害関係者)をリスト化
・プロジェクトマネージャーの名前
引用:jooto/プロジェクト憲章(プロジェクトチャーター)とは何か?
参考:一般社団法人 PMI日本支部/プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)
こうした設計図のことを、DX推進においては通常「DXジャーニーマップ」と呼び、DXを推進する前に作成すべきもっとも重要なキーアイテムとして考えられています。
なお、DXジャーニーマップはDX推進の指針となるものですが、「一度作成したら終わり」というものではありません。
日々進化を続けるデジタル技術や、変化する社会情勢、社内の状況などを総合的に判断して、アップデートすべき情報があれば最新の情報に更新するなど、常に最適なものになるように意識しながらプロジェクトを進行させていく必要があります。
予算の確保
DX推進にあたって、予算の確保と効率的な投資も重要なポイントです。予算次第で導入できるツールや掛けられる工数など大きく変わってくるため、予算の確保はDX推進を始める前に抑えるべき項目です。
予算を検討する際は出来る限りかかる経費を洗い出し、漏れや重複が無いように設定します。
中小企業では掛けられる予算も限られているため、助成金や補助金の活用も視野に入れながら進めると良いでしょう。
大きな予算が取れない場合でも、DXを諦めてしまう必要はありません。少額のスモールステップからでもDX推進は十分可能です。
DX推進の目的と手段を整理したうえで予算を確保し、着実にプロジェクトを推進させます。
関係者へのプロジェクト共有
DXを推進するプロジェクトチームが発足したら、社内だけでなくステークホルダーを含む全てのDXに関わる人にプロジェクトの内容を共有し、理解を深めてもらいます。
伝える際は、一方的にプロジェクトの内容を伝えるだけでなく、聞き手にとって「DXを推進するとどのようなインセンティブが生まれるか」を理解してもらうことが大切です。
よくある失敗例として、他部署の理解を得ないまま、プロジェクトチームだけがDX推進に前のめりになってしまった結果、社内の反発を受けてプロジェクトが停滞してしまうことがあります。最悪の場合は、調整が難航し、プロジェクトが中止になってしまうケースもあります。
あらかじめメリットやインセンティブを明確に伝え随時進捗状況を共有しておけば、こうした失敗を回避することが出来るでしょう。
また関係部署だけではなく経営層もしっかりと理解し、経営課題として全社一丸となり、プロジェクトを推進させることが成功のカギです。
まとめ
今回は、「経理部門のDX推進を成功させるための3つのビジョン」と「プロジェクト立ち上げのプロセス」について解説しました。
DX推進の目的や手段は、それぞれ企業の実態に合わせて決めることが必要であり、唯一無二のオリジナルな戦略が求められます。
DXを実現するためには、自社のビジョンを明確にして、ブレない軸を会社全体に浸透させることが重要です。
またプロジェクトを進めるにあたっては、外部に依存するのではなく、出来る限り内製化して社員全員が「自分ごと」と捉えられるよう、経営者から現場担当者までが密に連携してプロジェクトを推進させなければなりません。
一般に「守りのDX」のイメージがある経理部門のDX推進ですが、経理のDXを進めることは企業としての根幹に関わる「攻めのDX」ということができます。そしてまた、その成功は準備段階で決まります。
貴社においても、経営陣が掲げるDXのビジョンと従業員が求めているDXのビジョンとのエンゲージメントを高めて、価値ある経理部門になれるよう準備を進めてみてください。
次回は、更に進んだ経理部門のDX導入方法について解説します。