DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタルを活用して社会生活全体を効率化する手段です。また、企業においては、その競争力を高める手段として注目されています。
しかし、デジタルの力によってどれだけ社会や企業をより良く変えていこうと思っても、すべての人々がその恩恵を等しく受けられるわけではありません。デジタルを活用するために必要な知識やスキルの有無によって生じる、いわゆる「デジタルデバイド(Digital divide)/情報格差」の問題があります。
社会や企業全体にとって利益を生み出すDXを実現するためには、デジタルデバイドの解消が必要であり、そのためにはデジタルインクルージョンの促進が不可欠です。
この記事では、デジタルデバイドを解消するデジタルインクルージョンに焦点を当て、DXのさらなる可能性を探っていきます。
目次
デジタルインクルージョンの現状
「デジタルインクルージョン(Digital Inclusion)」とは、人の属性(人種、居住地域、所得、家庭環境、年齢、障害の有無など)にかかわらず、すべての人々がデジタル技術にアクセスし、活用できる状態、あるいはそれを目指すことを指します。
デジタルインクルージョンは、DXの成功に欠かせない要素であり、すべての人々がデジタル技術にアクセスし利用できる環境を整えることは、社会全体の包括的な発展に繋がる重要な施策です。
しかし、現実には、遠い世界の話ではなく日本国内においても、デジタル技術へのアクセスには看過できない格差が存在しており、「デジタルデバイド」は大きな社会課題になっています。
本章では、デジタルインクルージョンの現状とその課題について詳しく見ていきます。
世界と日本におけるDXとインクルージョンの現状
グローバルにDXが進行する中、デジタル技術へのアクセスの格差、すなわち「デジタルデバイド」がより大きな問題となっています。
特に発展途上国では、インフラの整備が遅れている地域が多くあるため、都市部と地方部でのデジタル技術の普及度に大きな差があります。これにより、情報や教育、医療サービスへのアクセスに大きな差が生まれており、社会的・経済的な不平等が拡大しています。
例えば、インターネットを十分に利用できる都市部であれば、すぐに入手できる災害や病気に関する情報が、貧困層も多い農村部にはなかなか情報が届かずに、被害が拡大してしまうなど実際に深刻な問題になっています。
日本国内においても、地域間のデジタル技術の普及状況には差があります。
例えば、都市部では高速インターネットが当たり前に利用できる一方で、地方部や過疎地ではインターネット環境が整っていない地域が依然として存在しています。
また、高齢者をはじめ、デジタル技術の利用に慣れていない層にとっては、目まぐるしく変化する最新の技術を利用することが難しい状況があります。
デジタル技術が進化し、社会において欠かせないインフレになっている現代社会において、こうしたデジタルへのアクセスの差は、ちょっとした「不便さ」の問題ではなく、生活そのものにかかわる重大な課題になっています。
デジタルデバイドのリスク
デジタルデバイドの問題はいくつも挙げられますが、一つには経済的格差を拡大させるリスクがあります。
例えば、デジタル技術を活用して、家庭の事情や生活スタイルにあわせてリモートでも仕事ができる環境が整いつつありますが、この恩恵を受けられるのは安定したネット回線があり、かつリモートワークに必要なツールを使いこなすスキルがある人に限られます。
また、オンラインで受けられる様々な教育コンテンツにアクセスできるかどうかは、中長期的に大きな教育格差を生み出します。デジタルを気軽に利用できる層がその恩恵を受けて、今までになかったチャンスを得る一方で、それができない層が置き去りにされてしまうのです。
デジタルが利用できない層が取り残されてしまうという問題は、一見すると社会正義や福祉の領域の問題のように思えるかもしれません。しかし、これは一部の「デジタル弱者」だけにかかわる問題ではなく、社会全体の効率性や生産性の観点からも問題があります。
例えば、高齢者がデジタル医療サービスを広く利用できるようになれば、社会全体の医療費を削減することができるでしょう。逆に、この問題を放置していくと、高齢化社会を支える現役世代の負担はますます重くなってしまいかねません。
国民全体の健康寿命を伸ばし、限られた医療リソースを効率的に活用するためには、高齢者とのデジタルデバイドを解消することが重要なのです。
さらに産業に目を向けても、例えば著しい進化を見せているスマート農業技術を広く利用できる環境さえ整えば、少人数でも効率的な農業が可能になります。
一方で、多くの農地を抱える地方とのデジタルデバイドが解消されず、農業従事者がデジタルにアクセスしにくい状況が続けば、生活の基盤である食料品の供給すらおぼつかなくなってしまうでしょう。これは、食料安全保障の観点からも大きな問題なのです。
このように、デジタルデバイドの解消は、個人だけでなく、社会全体の健全な成長に直結しているのです。
デジタルデバイドの問題を放置していくと、社会の分断が深まり、最終的には社会不安が広がる恐れもあります。
デジタル技術を利用できない層が経済活動や教育機会から取り残されてしまうことは、当事者にとって不利益であるだけでなく、社会全体の経済活動にもマイナスの影響を与えるリスクがあるのです。